BELLE 実験用イベントビルダー '96年報告

藤井啓文(KEK Online Group)
(11-Dec-1996)

この報告は、一般向けに、藤井啓文が個人のレベルでまとめた報告であり、 公式のものではありません。
1.何をするものか?

BELLE 実験のように、データの高速・大量処理が必要になる場合、 各測定器からのデータを一つのプロセッサで事象データに まとめあげる作業が困難になってきます。そこで、これらの処理を 専用の機器を使って並列に処理できるようにしたものがイベント ビルダーと呼ばれるものです。

イベントビルダーには、いくつかの方式があります。従来は、 双方向からアクセス可能なメモリーを使って行われていました。 しかし、この方式では必要なメモリーは、入力と出力の積に比例 するために、規模が大きくなると、費用が急速にかさむばかりで なく、サイズの変更も困難です。

そこで、最近では、スィッチングネットワークなどで使用されている 技術を利用した方式がいくつか開発されています。 BELLE 実験で採用したのは、高速のバレルシフターを利用してリンクを 切り替えるスイッチ方式のものです。
2.要求される性能

BELLE 実験では、データ収集系は 500Hz までの使用に耐えること (時間で言えば2ミリ秒で処理できること)が要求されています。
BELLE 実験では、イベントデータの平均サイズは 30キロバイトと 予想されています。また、測定器は 10 前後のサブシステムに 分かれていますから、各サブシステムでのデータ量は平均 3キロ バイト前後と予想されます。

実際には、イベントデータのサイズはイベント毎に異なり、 また測定器も信号の多いものや少ないものがあるので、 イベントビルダーと各サブシステムとの間では 500Hz で 6 キロバイト程度までの処理能力を持たせることを目標に開発、 設計が行われました。

一方イベントビルダーからオンラインコンピュータへは、 イベント単位のデータ転送になっていますので、30キロバイト前後が 一つの単位になります。
オンラインコンピュータは 6 前後のサブシステムに分かれています。 また、ここでデータの流れは平均化されるので、一つのオンライン コンピュータサブシステムとの間で 100Hz の処理能力を目標にして います。
3.開発事項

イベントビルダーには、次の要素があります。 これらのハードウェアは、本年度すべて最終チェックが終わり、量産 体制に入れる状態になっています。
また、エレクトロニクスを収納しているコンテナと、オンラインコンピュータ との間を高速に転送するための光と電気信号の変換器も新たに開発 されました。
これらを用いて、本年度2入力2出力のイベントビルダーを構築し、 ソフトウェアの開発・テストを兼ねて、性能試験を行いました。
4.測定結果

イベントビルダーは、CPUボードにより制御されるために、使用 するOSや、アルゴリズムにより性能は大きく左右されます。
現在、まだ十分な最適化は行われていませんが、表に示すように、 既に測定器サブシステムのデータ量で 8キロバイト程度でも、500Hz の 使用に耐える結果が得られ、目標としていた 6キロバイトのデータを 500Hz で送ることは十分可能であることが示せました。
表:測定結果
データサイズ(bytes) 処理速度(msec) 耐久周波数(Hz)
128 0.22 4520
256 0.25 4050
512 0.29 3470
1024 0.53 1890
2048 0.65 1540
4096 0.88 1130
8192 1.74 575
16384 3.43 292
32768 6.55 153
また、後段の目標値である、「30キロバイトデータでサブシステム 当たり 100Hz」 に対し、1.5 倍の性能が得られており、こちらの 目標値にも達しています。
ハードウェアの性能からは、より高い性能が得られる可能性が 残されており、現在ソフトウェアのアルゴリズムを含め検討が 行われています。
5.開発体制について

最後に、開発体制について一言触れておきたいと思います。この システムの開発には、BELLE 実験グループメンバーばかりでなく の多大な協力によって行われています。 既存のグループや組織を超えた体制で行うプロジェクトの一つの 成功例になることを望んでいます。
6.写真

これらは、2x2イベントビルダーのテスト風景の写真 (10-Dec-1996 撮影)です。